2021年10月29日15時5分~に放送された『BS世界のドキュメンタリー 寄り添って輝く〜デンマーク 幸せの認知症ケア〜』の視聴記録です。『思いやりは治療である』という考え方に基づく認知症ケアとは。
1人の女性の優しさが作り上げた思いやりの老人ホーム
デンマークにある老人ホーム『ダウマスミネ』。『ダウマスミネ』は、マイ・ビエル・アイビーという1人の女性が、作り上げた思いやりの老人ホームです。
その背景には、自らの悲しい体験がありました。マイ・ビエル・アイビー(以下マイ)は、17歳の時から、介護施設で働き始めます。その介護施設は鼻を突くようなおかしな臭いが漂っており、施設の職員たちの目は、入居者には向いていませんでした。入居者はほったらかしにされていたのです。名前で呼びかけることもしなかったとマイは語ります。
マイがその介護施設を去ったあと、マイの父親が認知症になりました。そして、介護施設に入ることになったのです。父が入居した介護施設はなんと、マイが働いていたその介護施設だったのです。
そこは、マイが働いていた頃と全く変わっていませんでした。父親は食べ方がわからない状態なのに、食事は父親の前に置かれるだけ。父親のユーモアは無視され、相手にされません。丈夫で元気だった父親は、入居後たった5カ月で亡くなりました。
その後、マイは土地を購入しました。介護施設を建てるためでした。
デンマークで行われている幸せの認知症ケアとは
『ダウマスミネ』には、入居者たちが穏やかに生活していました。
マイを中心とした職員たちは、常に入居者一人一人の体調を気遣っていました。
他の施設で薬を1日10種類飲んでいたという新しい入居者。その家族は投薬が多すぎることに不満を持っていました。それが、『ダウマスミネ』の専門知識も有する職員たちが話し合った結果、1日1種類以下にすることが出来ると判断されました。
ある入居者の認知症の女性が、食事の際に目の前にある花瓶から2輪の花を抜き取り、じっと見つめていました。女性の夫が「取ってはダメ。花瓶に戻して」と注意しても女性は花を持ったままです。そんな女性に、職員は優しく語りかけます。
「捨てられないように守っているの?」
入居者が落ちついて穏やかに過ごせるようにと職員たちは常に気を配っているようでした。
『思いやりは治療であると信じる』
施設の職員たちは決して入居者に声を荒げることもなく、慌てる様子を見せることもなく、イライラすることもなく、常に穏やかにスキンシップを取りながら、同じ視線で語りかけているのが印象的でした。
マイは『思いやりは治療であると信じる』と語ります。
音に過剰反応して怒り出す入居者
ある日、記念日に施設の皆でケーキを食べていました。その時、祝福のための曲が流れ始めたのですが、そのとたんに1人の男性入居者が「うるさい」と騒ぎ出したのです。
職員の1人がすぐに男性入居者のそばに歩み寄ります。そして、慌てる様子もなく、穏やかな口調で「外に出ましょう」と男性を外に連れ出します。
「音が大きすぎる」と文句を言う男性に、「確かに私も驚いたわ」と同調し、男性の怒りを受け止めていました。決して否定をせず、男性の怒りが収まるまで話を聞いているようでした。
入居者が別の入居者を殴ったとき
別の日、入居者の男性が、別の入居者の女性を殴るという事件が発生しました。
マイは「どうしてこんなことが起こってしまったの」と落胆します。
しかし、それから女性の治療だけでは終わらせず、加害者の男性のほうにも意識を向けます。
「必ず兆候があるはず。それを見つけて、男性を落ち着かせよう」
それが、マイの答えでした。
看取りが近づいた女性入居者
日に日に弱っていく女性入居者。どうやら看取りの日が近づいているようでした。
女性は食べ物を口にしていましたが、マイはそれが無理をしているのだと気づいていました。
女性は介助してくれる職員に気を使い、喜んでもらおうと、無理をして頑張って食べ物を口にしていたのだとマイは話します。ずっと見てきた女性のことだから、よくわかるのだと言います。
マイは、女性が楽にできるように、穏やかに旅立てるようにと考え、食事の介助を辞めようと他の職員たちに提案しました。
女性が寝て過ごしている間、ある職員は丁寧に女性の体を拭き、顔にローションを塗り、女性の手を優しくさすっていました。
『ダウマスミネ』では、入居者の尊厳が守られていました。
歯磨きや入浴の際も、職員たちは作業の様にこなすのではなく、常に入居者に話しかけ、スキンシップをしながら介助していました。
これが介護のプロフェッショナルとしての仕事なのだなと感じる温かいドキュメンタリーでした。