認知症と介護

否定しない受け答えの技術 ー認知症の男性とハンバーガーショップ店員の例ー

中日メディカルサイトに連載されていたブログ「青く、老いたい」(編集担当は医療担当の編集委員安藤明夫氏)に、「受け答えの技術」と題して、認知症の方への対応について1つのエピソードが紹介されていました(2012年3月の投稿)。

否定せずに「そらす」技術

たとえば認知症の方が、財布を持ってスマホの操作をしようとしていたとします。それは本人にとっては電話を掛けたいと思ってそのために行っている動作です。そこに他人が「それはスマホじゃないから」と突然手を伸ばし、財布を取り上げたとしたら、本人は怒られたとか、自分の動作に割り込んで中断させてきた、自分は否定されたと大きく反応します。

そんな認知症のおじいさんがハンバーガーショップに立ち寄ったときの話が「青く、老いたい」のブログに掲載されていました。

大切なのは、否定しないこと。否定ではなく気持ちをそっとそらすことが重要です。

介護士が見せた「そらす」技術

グループホームに入所していたおじいさんは認知症を患っています。
ある日、自殺をほのめかして外出したそうです。
介護士はとっさに後を追います。

介護士はおじいさんの隣に立って歩きます。
歩いている間、様々な雑談をします。
おじいさんが自殺の場所を「ここにしよう」と言っても、「もっと別の場所がいいですよ」とか、「ここではないほうがいい」と違う場所を促しつつ、散歩を続けます。

そのうち、おじいさんは当初の目的を忘れ、散歩だと思うようになったのです。

自殺から気持ちを散歩にそらすことに成功したわけです。

責任の所在を置き換える対応

おじいさんは、その「散歩」の途中、ハンバーガーショップに立ち寄りました。
注文をしてから、くしゃくしゃのティッシュペーパーを取り出しつつ、「いくらだ」と聞いたそうです。

介護士はドキリとしました。ここで「それはティッシュペーパーなので、お金をお願いします」などと否定されれば逆上して精神不安定になりかねません。

しかし、若い女性のショップ店員は見事な返しを見せます。
「申し訳ありません。当店においては現在、こちらのお札はご利用できなくなっております。」
店の否であるように状況を置き換え、おじいさんのミスを否定なしで切り抜けたのです。
結果、おじいさんは小銭を出してその場は円満に終わったのです。

大切なのは否定をしないで誘導すること

認知症の方は、 自らの能力に大きな不安をもっています。
しかし、プライドは強く残っています。

そこを否定されるのは、非常につらいことであり、精神の不安定を招いてしまいます。尊厳は大切にする必要があります。
ですから、否定をするのではなく、肯定しながら上手に誘導してくことが大切です。

2020年時点で日本全国に600万人以上いる認知症の方たちが、住みやすい社会になるには、こういった理解を社会の1人1人が深めていくことが必要でしょう。