認知症と介護

視聴記録:ハートネットTV(私のリハビリ・介護)『認知症の父を受け入れるまで』[ゲスト]ハリー杉山さん

20代の時に経験した父親の介護。タレントのハリー杉山さんが、強く優しい尊敬する父が変わっていく姿に悩み、葛藤した介護経験を語っていました。

認知症の父を受け入れるまで

ハリー杉山さんの父、ヘンリー・スコット・ストークスさんは2012年にパーキンソン病と診断され、その後認知症の症状も出るようになりました。
杉山さんにとって、世界で活躍するジャーナリストである父のヘンリーさんは最強で無敵の存在でした。杉山さんに「自分を主張しろ」と教えてくれてた父が病によって変わっていく姿は、最初は受け入れられなかったと話します。

認知症の症状にも「きっと年を取っただけ」

ヘンリーさんはパーキンソン病の症状から体が固まってしまい、動きに制限が多くなっていきます。加えて認知症によりもの忘れが激しくなっていきます。

そんな様子を見ても、「きっと年を取っただけなんだ」と、病を否定したくなる気持ちが強かったといいます。

認知症の父につらく当たってしまう

筋肉が固まり動きにくい為、できない動作も多い父。加えて伝えたこともすぐ忘れてしまいます。杉山さんは、そんな父ヘンリーさんに、「なんでできないの」「なんで覚えていないの」とつらく当たってしまったそうです。すると、父ヘンリーさんは『自分は出来ないんだ』と委縮してしまったのです。

認知症の方は自分がおかしくなっていくことを実感しているため、不安が大きく、些細な事にも敏感に反応します。介護者から怒られたり、不機嫌に接する様子を見せられたりすると、なぜ自分が怒られているのかわからないままマイナスの感情だけが残るといいます。それが介護者との関係を悪化させ、介護をさらに難しくするのです

着替えにも介護が必要になったヘンリーさん。杉山さんが着替えを手伝うために父の服に手を掛けると、ヘンリーさんは杉山さんを攻撃するように反発しました。パーソナルスペースに入られるこを嫌ったのです。杉山さんは父を殴る一歩手前まで追い詰められたと話します。

介護への葛藤と現実逃避

パーキンソン病と認知症の為仕事を辞めるしかなかった父と、仕事はしていない母。二人を支えるために杉山さんは仕事に励んでいました。介護と仕事で体力を消耗し、寝る時間も削られ、メイクさんから「目の下のクマがゾンビみたいですよ」と言われたこともあるのだとか。
そんな中でも、現実逃避の心理から、朝まで飲み明かして遊んでしまうこともあり、そんなときは決まって罪悪感に襲われたと話します。
「自分はこのまま父を支えられるのか? それとも、支えられないのか?」
母も自分も、物事の優先順位(プライオリティ)がすべて父であったという日々。追い詰められた家族を救ってくれたのは施設の存在でした。

介護施設に預けたことで心に余裕が生まれた

施設に預けると決めるまで、ずいぶん葛藤があったそうです。「これは父を見捨てる行為なのではないか? 命を奪うようなものではないのか?」そんな考えが杉山さんを悩ませました。しかし、そんな杉山さんに、腰を悪くしていた母は「現実を見よう」と言い、ヘンリーさんを施設に預けることを決めたのです。2016年のことでした。

杉山さんは週3回父の暮らす介護施設に足を運び、父と時間を共にしました。施設に預けたことで心に余裕が生まれ、杉山さんも、母も、父も笑顔を取り戻したと話します。時々外出して家族で食事をすることもでき、笑顔を増えました。その父の笑顔を見て、「おいしいものを食べさせてあげたい」という気持ちも増したそうです。

杉山さんは『プロの技』に感服しました。マッサージの仕方や同じ目線で話すという接し方、視界のどのあたりから手を伸ばすとヘンリーさんが攻撃的にならないかということも熟知している。 自分たちとは天と地の差であると実感したと話しました。

自分自身を大切にすることが介護では大切

以前は母も自分も、優先順位は常に父から。自分を犠牲にして頑張っていました。しかし、ヘンリーさんを施設に預けたことで、自分ことも大切にできるようになったと話す杉山さん。

施設で働く『プロ』の人たちを見て杉山さんはこう感じました。

「人を介護するとき、自分自身が最大のプライオリティ(優先順位)であるということ。大切なのは『Me ファ―スト』。自分自身がリフレッシュしていないと、相手をリフレッシュすることはできない」

ヘンリーさんは、杉山さんにこんなことを語ったことがあるそうです。

「ハリー、私は頭がおかしくなってしまった。自分が何をやっているのか、どこにいるのかもわからない。でも、頭がおかしくなったほうが、なんだか楽しいなぁ」

杉山さんは「認知症を楽しもうとしているのか? この人は強いなぁ」とその精神力に感心したそうです。

ヘンリーさんは認知症になった自分を客観的に、俯瞰的に見て、気持ちを安定させる考え方を見つけていたのかもしれません。