認知症を遠ざけたい、認知機能を高く保ちたい、そのためには何に気を付ければいいのか?その疑問に答えるガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』が世界保健機関(WHO)より2019年に公表されました。
認知症は2015年に世界で約5000万人、2030年には7500万人に達するといわれています。毎年1000万人が新たに発症しており世界の大きな問題として研究も積極的に進められています。
ガイドラインの中でWHOは、認知症を予防する、または認知症の進行を遅らせるための対策として推奨される12項目を発表しています。
⇒WHOが公表したガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳はこちら
身体活動による介入
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
身体活動は、認知機能正常の成人に対して認知機能低下のリスクを低減するために推奨される。
身体活動とは、積極的な運動だけでなく、家事や買い物、ガーデニングなどの生活の中で行う体を動かす活動や、散歩やストレッチなどの軽い運動も含みます。
身体にとって非常に楽な安静な状態を減らして、身体を活動的にすることは、認知機能低下および認知症のリスク低減にとても役立つと、WHOは強く推奨しています。
体を動かすことは、様々な病気の予防にも効果的ですから、積極的に行いたいですね。
禁煙による介入
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
禁煙介入は、他の健康上の利点に加えて、認知機能低下と認知症のリスクを低減する可能性があるため、喫煙している成人に対して行われるべきである。
禁煙は、健康上の利点が大きく、認知症のリスクも軽減することから強く推奨されています。
栄養的介入
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
WHO の健康食に関する推奨に準拠して、健康なバランスのとれた食事は全ての成人に対して推奨される。
WHOが強く推奨するのは「バランスの取れた食事」です。
テレビなどで、「〇〇がいい!」と紹介されることも多いですが、そればかりを摂取するのは好ましくありません。
何かに偏った食事ではなく、「バランスの取れた食事」が大切です。
よく、地中海食が取り上げられますが、WHOでは推奨の度合いは中程度としています。「バランスの取れた食事」と言われても困るしよくわらない…という人は、地中海食を取り入れるのも悪くない選択でしょう。
また、サプリメントについては、「ビタミン B・E、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントは推奨しない」と否定しています。
アルコール使用障害への介入
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
危険で有害な飲酒を減量または中断することを目的とした介入は、他の健康上の利点に加えて、認知機能正常または軽度認知障害の成人に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行われるべきである。
ガイドラインによると、「危険で有害な飲酒」を減量する必要がある、ということです。
健康な人であれば、飲みすぎはだめですよ、と考えればよさそうですが、認知機能に不安があるのであれば、それ以上に飲酒を抑える必要がありそうです。
よく、適量であればプラスであるといわれるお酒ですが、「適量で抑える」ことがなかなか難しいため、お酒を飲まない人がわざわざ「適量を飲む」ことは推奨されていません。
認知的介入
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
認知トレーニングは、認知機能正常または軽度認知障害の高齢者に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。
脳トレーニングについては、効果があることはあちこちで言われているのものの、「脳トレ」の種類が多岐にわたることや、いわゆる「脳トレ」以外の要素である「読書」や「知的な趣味」、「”考えること”や”決定すること”の頻度」などと区別して考えることが難しいこともあり、エビデンスが出にくい分野です。
社会活動
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
社会活動と認知機能低下や認知症のリスクの低減との関連については十分なエビデンスはない。ただ、社会参加と社会的な支援は健康と幸福とに強く結びついており、社会的な関わりに組み込まれることは一生を通じて支援されるべきである。
脳トレ同様に「十分なエビデンスがない」という社会活動。
体重管理
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
中年期の過体重、または肥満に対する介入は認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。
肥満は糖尿病や高血圧の危険因子です。『認知機能低下および認知症のリスク低減のガイドライン』の12項目の中に、「高血圧の管理」と「糖尿病の管理」が入っていますし、さらに肥満傾向にある人は同じく12項目の1つである「脂質異常症」の人も多い傾向にあります。
高血圧の管理
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
高血圧の管理は、現行の WHO ガイドラインの基準に従って高血圧のある成人に対して行われるべきである。
認知症の中で最も多いのは「アルツハイマー型認知症」ですが、それに次いで多いのが「脳血管性認知症」です。高血圧は、アルツハイマー型認知症との関連性は指摘されていませんが、脳血管性認知症との関連性は深いことがわかっています。
高血圧は脳卒中や脳梗塞の大きな原因として知られています。これらの病気は直接生死にかかわりますから、高血圧から目をそらさないことは大切ですね。
糖尿病の管理
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
糖尿病のある成人に対して、内服やライフスタイルの是正、または両者による糖尿病の管理は現行の WHO のガイドラインの基準に従って行われるべきである。
また、糖尿病の管理は、糖尿病患者に対して認知機能低下や認知症のリスクを低減するために行ってもよい。
脂質異常症の管理
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
脂質異常症の管理は、脂質異常症のある中年期の成人において認知機能低下と認知症のリスクを低減するために行ってもよい。
脂質異常症とは、「血液中の脂質の値が基準値を外れている状態」のことです。大きく分けて3タイプに分かれます。「LDL(悪玉)コレステロールが多いタイプ」、「HDL(善玉)コレステロールが少ないタイプ」、「中性脂肪が多いタイプ」です。この3タイプは2つ以上を合わせて持っている場合もあります。
原因は食習慣や運動習慣に連動する原発性と、ホルモンの以上による続発性があります。
食習慣が乱れているときは、乳酸菌やビフィズス菌を積極的にとって善玉コレステロールを増やす対策も有効です。
うつ病への対応
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
現在のところ、認知機能低下や認知症のリスクを低減するために抗うつ薬の使用を推奨するエビデンスは不十分である。成人に対する抗うつ薬や心理療法を用いるうつ病治療は、現行の WHO mhGAPガイドラインの基準に従って行われるべきである。
うつ病が認知症のリスクになるかという問題以前に、うつ病と認知症とを厳密に分けて見抜くことは困難ですし、両方を併発している場合もあります。双方とも「今までできたことができなくなる」とか、「無気力になる」などの共通の症状があります。
難聴の管理
【『認知機能低下および認知症のリスク低減』の日本語訳より抜粋】
認知機能低下や認知症のリスクを低減するために補聴器の使用を推奨するエビデンスは不十分である。
WHO ICOPE ガイドラインで推奨されているように、難聴を適時に発見し治療するために、スクリーニングと難聴のある高齢者への補聴器の提供が行われるべきである。
難聴になると耳からの刺激が減るため、脳の活動に影響が出ます。また、会話が聞こえないことからコミュニケーションの機会が減り、それが認知能力に影響していると考えられています。
難聴の人はそうでない人と比べて脳の萎縮のスピードが速く(アメリカの研究)、認知能力は30~40%も低いのだそうです。
12項目を参考に認知症を遠ざける生活習慣を
12項目をご紹介してきましたが、「バランスの良い食事を心がけ、運動と知的活動を積極的に行い、ストレスコントロールを意識すること」が認知症対策には有効とまとめられそうです。