認知症と介護

物盗られ妄想はなぜ起こるのか アルツハイマー型認知症の初期症状

アルツハイマー型認知症の初期に見られる症状として、「物盗られ妄想」というものがあります。このページでは、「物盗られ妄想」とは何かと、「物盗られ妄想」が起きる原因について書きます。

「物盗られ妄想」とは

物盗られ妄想とは、認知症によって起こる代表的な症状の1つです。実際は無くした状態にもかかわらず、「誰かに盗まれた」と思い込む症状のことです。

たとえばいつも置いてあった場所にサイフがないことに気づいて「サイフが盗まれた」と家族や介護ヘルパーの人を疑います。

この症状の特徴としては、まだ自分のことは自分でできる認知症の初期に多く、また、疑う矛先は家族や介護ヘルパーなど、認知症の本人と馴染みがある人であることです。さらに、自分が無くしたとは全く思っておらず、「盗られた」と心から思っています。

なぜ物盗られ妄想が起きるのか。身近な人を疑う心理とは

認知症を発症すると、本人は不安で仕方がなくなるでしょう。そして、自分は必要のない存在と自分を否定しやすくなります。

そんなときに、家族に否定的な言葉を向けられると、さらにその傾向は高まります。
「手伝おうか」と言っても「こっちでやるから大丈夫」、「ねえ、ちょっと・・・」と話しかけても「あとでね」と、頼られることもなければ話しかけても迷惑そうにされるとなれば、自分は邪魔者なのだという思い込みも強くなっていってしまいます。

そのうち、家族はきっと自分が不要だから追い出そうとしている…などという被害妄想に発展してく可能性があります。

そうなると、自分のことを守れるのは自分だけと感じて、貴重品をもっと安全な場所に移動させようと考えるのは自然でしょう。そして、いざ移動させたあとに、その事実を忘れて「いつもの場所にない!」と焦ります。
「きっと家族が嫌がらせをしているのだ。盗ったのは家族だ」と怒りの矛先を家族に向けるのです。

物盗られ妄想の対処の仕方

「サイフが盗まれた!」と疑惑の目を向けられて、「私じゃない」「盗まれてない」「違う」と否定しても本人は絶対に理解しません。「盗んだのに違うと言っている!とんでもないことだ!」と怒りが増してしまうだけです。本人にしてみれば、「物を盗られた」ということは紛れもない事実なのです。

たしかに「物を盗られた」のですから、否定はNGです。「どこかに隠しているかもしれませんよ。一緒に探してみましょう」などと、盗られたと主張している物を見つけ出すように促し、実際に一緒に探すことが大切です。本人が悪いのではなく、悪いのは病気です。怒りを向けるなら病気そのものであるべきで、本人にそれを向けても不安を大きくして症状を悪化させてしまうだけです。

この症状は認知症の初期に起こるものなので、症状の進行とともにいずれ消失します。また、本人の不安を和らげることで緩和が期待できます。