認知症と介護

物盗られ妄想とは? 認知症による妄想の原因と対策

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などをはじめ、認知症全体に高い頻度で現れる症状に「妄想」があります。妄想の中でも、「物盗られ妄想」は特に頻度が高く、妄想の75~80%程度が物盗られ妄想と言われています。

物盗られ妄想とは

物盗られ妄想とは、その字の通り、「物が盗まれたと妄想する」症状です。認知症の初期に起こりやすく、多くは財布や通帳、宝石類、鍵など、財産にかかわる大切な物に対して「盗られた」と訴えます。長く時間を共にしている人に疑いの目が向かい、家族やヘルパーなどが攻撃の対象となります。

置いたはずの場所に物がない時、通常であれば「あれ、別の場所に置いたかな」と記憶をたどりながら探します。しかし、物盗られ妄想の場合は「置いたはずの場所にない=盗られた」と確信します。自分が別の場所に移したという記憶はそっくり抜け落ちているわけですから、「いつの間にかいつもあるはずの場所から消えていた」となり、これは自分以外の誰かの仕業だろうと考えるのです。

これに対して、「私は盗んでいない」、「あなたがどこかに置いて忘れてしまったんだ」と本人を説得しようとしても、本人は「盗まれた」ことを確信しているため言い合いになるだけです。
物盗られ妄想の初期であれば、説得に応じることもありますが、次第に疑いは確信に変わっていき、確実に盗まれたのだと思い込むようになります。

物盗られ妄想が起きる背景

高齢になると、認知症でなくても、財産が減っていくことを感じたり、健康への不安が増え、体力の衰えを実感したり、近しい人が亡くなったり、社会や人とのつながりが無くなるなど、喪失感を多く抱えるようになるものです。その上に認知症により記憶が徐々に失われていく中で、認知症のせいで起こってしまう失敗の連続があり、そんな自分の状況に対して悲しい、寂しい、不安だ…と精神的に追い込まれてしまいます。このような精神状態が、妄想を引き起こすと考えられています。不安が大きくなると、疑う心も大きくなることは想像できるのではないでしょうか。

大切な財産を無くしたくないという思いから、通帳や財布の場所を別の場所に移してしまい、「いつもの場所に無い!盗られた!」となるケースもあります。

疑われた時の対応の仕方とは

「お前が盗んだんだろう」と疑われれば、誰しも怒りがわいてしまうものです。しかし、これはすべて認知症が引き起こしたものですから、認知症の本人に怒りをぶつけても仕方がありません。本人は「盗られたことは間違いない」と確信しているのですから、否定しても相手の怒りが大きくなるだけです。
大切なことは、否定しないことです。
「財布がないのですか。大変ですね。一緒に探しましょう」と一緒に探し、見つけたときは本人が見つけやすい場所にそっと置いておくといいようです。また、見つかった後に、「よかったですね!」と一緒に喜ぶことで、疑いを無くしていくことができるといいます。
いつでも見つかるとは限りませんから、相手が楽しめる話をして、無くしものをしたこと自体から気持ちをそらすのも有効です。
どうしても本人の怒りが大きい時は、「トイレに行ってきますね。すぐに戻ってきます」と、その場を離れる理由を相手に伝えてから少し本人から離れるのいい方法です。

物盗られ妄想の頻度を減らすには

物盗られ妄想の背景にあるのは、不安や寂しさ、自分は邪魔者なのではという疎外感、様々な喪失感や自分が家族に迷惑をかけているのではないかという自信のなさなどです。
これらの背景を軽減することができれば、物盗られ妄想の頻度は低下するはずです。
話をよく聞くとか、安心させるように努めるとか、頼ってみるなど、人によって対処法は異なるでしょう。

その他の妄想とは

認知症による妄想では、「物盗られ妄想」が最も多く、75~80%を占めますが、それ以外にもいくつかあります。
「浮気をされた」、「家族にのけ者にされている」、「家族に嫌われている」などが代表例です。

厚生労働省による「精神病床における認知症入院患者に関する調査」についてという調査のなかで、「調査時点から過去1カ月間の精神症状・異常行動の頻度」をまとめています。これによると、認知症を患う人の15%に、何らかの被害妄想が毎日出現しているとあります。

認知症の本人一人一人にそれぞれの背景があります。対応が難しい時は、ヘルパーなどの専門家に相談して、抱え込まない方法をとることが大切です。