認知症と介護

『認知症の私に見える風景』ハートネットTV【視聴記録】

46歳で若年性認知症の診断を受けた下坂厚さん。SNSで情報の発信を続ける下坂さんの、『認知症の私に見える風景』とは?
2022年6月15日放送の「ハートネットTV」を視聴し、参考にしています。

46歳で認知症の診断を受ける

下坂さんは46歳の若さで認知症の診断を受けました。
鮮魚店で働き、自分のお店を持とうとした矢先のことでした。
やらなくてはいけないことを忘れてしまう、一緒に働いている人の名前を忘れる、バイクで移動中、目的地を忘れてしまう。度重なる物忘れに不安を感じて物忘れ外来を受信したことで発覚しました。

その時、「認知症になると何もわからなくなってしまう。何もできなくなってしまう」と考え、ふさぎ込んだといいます。
仕事を辞めてひきこもる生活が始まりました。

しかし、それから1か月後、訪問医療のスタッフから、デイサービスで働くことを提案されます。
施設長も理解を示し、下坂さんに、「アルバイトから始めてみたら?」と勧め、下坂さんはこの施設で働き始めます。

働いていくうちに認知症になると何もわからなくなる、何もできなくなるという考えは間違っていたと気づき始めます。
施設に入所している約30名(8割が認知症の方)の顔と名前を一致させることも苦労するが、丁寧な対応で頼られる存在になっている。下坂さんは働いていけるという手ごたえを感じ、その後正社員となり、フルタイムで働くことになります。

それでも、2020年11月にローンを払えなくなり、思い出が詰まった家を売却。住み慣れた家を離れました。

「記憶に頼る」のではなく「その場で考える」

仕事は一人でやるものではありません。周りの人を見ながらなら何をすべきかを「その場で考えて判断」することができるのです。
頭の中の記憶は取り出しにくくても、考えることはできるので、仕事を進めることが可能なのです。

認知症になると何もかもわからなくなるというイメージがいまだに根強いですが、記憶が失われたり、思い出せなくなっても、本人の心の世界の中で常に考えて行動しているのです。

認知症の自分が見る世界はすべてが不確か

歩いている道は、普段歩いているはずなのに初めて歩く道に感じる。
バスに乗っていても、スマホアプリの地図を開いて自分の位置を確認していないと迷ってしまう。
「すべてが不確か」という下坂さん。
仕事は遅れないように、早めに出発して近くの公園で時間をつぶしてから出勤するそうです。

一日を振り返るのは難しいが、明日を想像することはできる

下坂さんには、認知症が進んでも失われないものがある、と確信した出来事がありました。
施設の利用者の1人で、認知症が進行し、話もちぐはぐで、ボーっとしていることが多い男性がいます。それでも、仕事で扱っていた絵をかくことはできるし、お地蔵さんの前に行くと毎回手を合わせます。すべてを忘れてしまうわけではない。
下坂さんは、自分に最後まで残るものは何なのかと考えると話します。
『認知症になって、やっと自分らしくなった。自分にたどり着いた』
夕焼けをただ美しいと感じるのではなく、そこから明日への希望や祈りを感じるという下坂さんは、認知症と戦おうとした過去の自分を超え、認知症の暗闇を受け入れてそっと抱きしめようと語り、変化を受け止めていました。

それでも、未来のことを考えると怖いと話します。今はまだ自分の名前を言えて、生年月日も何とかわかるけれど、未来には家族のことや自分のことが不確かになっていってしまう。それがわかるから怖いのだと言います。

以下は下坂さんのメッセージです。

『記憶が曖昧で1日を振り返ることは難しいけど、明日を思い描くことはできるから、楽しい明日を想像する。明日もいい日になりますように。大切なことは忘れない。心はずっと無くならない』